2011年12月20日

EPO北海道 有坂さん@

『持続可能な取り組みが環境を守る』

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環境省北海道環境パートナーシップオフィス 有坂美紀さん

「持続的じゃないと環境破壊に直接つながる」と、第一次産業と環境の両立を考え、持続可能な地域づくりのアプローチを続ける有坂さんにお話を伺いました。





私、相当な生き物マニアです

インタビュアー(以下EC):環境省北海道環境パートナーシップオフィス(以下、EPO北海道)で、持続可能な社会形成を目的とした環境保全の促進に努めるとともに、最近では東日本大震災に関する情報の発信に取り組まれている有坂さんにお話を伺っていきたいと思います。今日はよろしくお願いします。

まずEPO北海道のお話をお聞きする前に、有坂さんが環境保全活動に興味を持つきっかけというのをお話ししていただけますか。

有坂さん:そもそも物心がついた時から虫でも何でも、とにかく生き物が大好きだったんです。

EC:そうだったんですか。今までそういう話をしたことがなかったですね(笑)。

有坂さん:そういえばそうでしたね(笑)。

私はたぶん相当な生き物マニアでオタクの域だと思います。

EC:そういうイメージがまったくありませんでしたね。

有坂さん:引かれるくらい大好きなので、普段はなるべく出さないようにしてるんです(笑)。小学生の頃は、動物といえば有坂さん!って感じでみんなに思われていましたね。クラスの飼育係りを決める時も、学校の飼育委員長を決める時も、瞬間的にみんなが「あ〜有坂さんね!」って感じでした(笑)。

大学も動物の勉強がしたくて酪農学園大学の短大で酪農の勉強をしました。卒業を前にしてもっと生き物のことを勉強したいと思ったんですね。ただ、生き物が好き過ぎて、どの生き物を研究するか決められませんでした。そこで、自然の環境としてはどちらかというと海が好きなので、海の生き物のことが勉強できる島根大学に編入し、ヤドカリの研究をしました。

EC:ヤドカリのことをよく知らないのですが、どのような研究をしていたのですか。

有坂さん:ヤドカリって、すっごく可愛いんです(笑)。

ヤドカリは世界中の海に生息していて、種類も比較的多いんですよ。調査のため、ヤドカリをいっぱい捕ってくるんですけど、採集用のバットに入れた瞬間から貝殻の奪い合いが始まるんです。より住みやすい家を確保するためにガンガン身体をぶつけ合うんです。動きがあるのでとっても面白いですよ。自分のサイズに合うかどうか、ハサミを広げて貝殻を計る仕草がまた可愛い(笑)。ちなみに、ヤドカリは左右のハサミの大きさが違うんです。左のハサミが大きくて、右のハサミは小さくなっています。オスは小さい方のハサミでメスを持ち歩いて、大きいの方のハサミで他のオスと戦うんです。

ほんとにヤドカリって可愛いんです(笑)。

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有坂さん:ところで、島根県には宍道湖(しんじこ)と中海(なかうみ)という汽水湖(きすいこ)があるんですけど知ってますか。

EC:いえ、知らないです(笑)。

有坂さん:そうですよね(笑)。この湖は海につながっていて、淡水だけではなく海の水が混ざっている“汽水湖”なんです。

EC:サロマ湖と一緒ですね。

有坂さん:そうです。サロマ湖とか厚岸湖などと一緒で、海とつながっているんです。

中海にはヤドカリが1種類しか生息していないのですが、中海から一歩海に出ると浅瀬だけでも5種類のヤドカリが生息しているんです。中海と同じ種類のヤドカリは海にもいるのですが、中海のヤドカリに比べてサイズが小さいんです。中海は汽水湖なので塩分濃度が低く、他の種類のヤドカリは中海に生息することができず、競争相手のいない中海のヤドカリは大きくなれるのでしょうね。

ヤドカリは、入っている貝殻の大きさで体のサイズが制限されます。大きくないと他のオスに勝てず子孫を残せないため、少しでも大きな貝殻を常に探しているんですよ。だから貝殻の奪い合いがすごく重要なんです。島根にはそんな面白い環境があって、中海のヤドカリがどれほど低塩分の環境に強いのか、海のヤドカリとの違いを比較する研究を大学でしていました。

大学生だった当時、この中海を干拓によって農地にし、淡水化した水を農業用水として使うという計画がありました。ただ、汽水というのは、非常に生物多様性の高い貴重な場所なので、生物の研究者などは計画の見直しを進めようとしていました。そもそも、この計画は50年ほど前につくられたもので、既に時代背景は大きく変化しており、計画にあるような広大な農地は必要とされていませんでした。

やっと2000年に公共事業の見直しがあって、干拓が中止になったんです。ただ、すでに中海を仕切る干拓堤防ができていたため、水が循環し難くく、貧酸素水塊(ひんさんそすいかい)ができてしまう場所が多くありました。今は生物に必要な酸素を水中に送り込むための潮通しトンネルを作るなど、水を循環させる取り組みが始まっていて、だいぶ回復してきたみたいですね。

松江の街の地図を見てもらうとわかるんですけど、街中に水路が張り巡らされていて、水の都とでもいうのか、良く言うとベニスみたいな感じです(笑)。用水路の中を魚が泳いでいたり、カメが甲羅干しをしていたり、ほんとうに松江って風情がいいところなんです。

また島根は歴史のある街なので、“黄泉の国の入口”もあるんですよ。

EC:ちょっと神がかった感じのところですよね。

有坂さん:10月は“神無月”ですよね。でも、島根県では全国の神様が出雲大社に集まっているので、“神在月”なんです。

EC:それは聞いたことがあります。

有坂さん:だからというわけではないですが、出雲大社は他の神社とは違う雰囲気を持ってるんです。屋根が苔むしていて、造りもちょっと他の神社とは違う感じです。ぜひ行ってもらいたいところですね。

松江は、もう一度住んでもいいと思える場所です。

EC:島根大絶賛ですね(笑)。

有坂さん:はい(笑)!

▲汽水湖(きすいこ)
海水と淡水とが混じり合っている湖で、海と湖が開水路を通じて交流のある場合が多く、日本ではサロマ湖・浜名湖・宍道湖などがある。


▲貧酸素水塊(ひんさんそすいかい)
水中容存酸素量が極めて不足して孤立した水塊。あるいはこのような水塊が占める水域のこと。この水塊によって海中に生息する生き物の大量死が発生し、漁業や養殖業といった水産業に多大な打撃をもたらすことがある。



海に関わることを、海に関わる人たちに伝えたい

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有坂さん:大学3年の時、全国の国立大学にある臨海実験所へ実習に行けるという授業があり、その中で唯一、北海道大学だけが哺乳類のことを勉強することができたので、厚岸にある臨海実験所の実習に参加しました。

厚岸の沖には“大黒島”という無人島があり、ゼニガタアザラシが一年中暮らしています。帯広畜産大学のゼニガタアザラシ研究会がよく来る場所なのですが、コシジロウミツバメが島中に巣穴を掘っているため、あちこちにボコボコ穴が空いているんですよ。日本有数の海鳥繁殖地として、国の天然記念物にも指定されているほどで、ほんとうに鳥だらけの島なんです。

EC:人が近寄っても平気なんですか。

有坂さん:足もと全部が巣穴ですけど大丈夫です(笑)。とにかく鳥だらけで、それまであんなに大きなコロニーには入ったことがなかったので、すごく感動しましたね。

EC:怖いじゃなくて、嬉しいそうですね。

有坂さん:嬉しいんです(笑)。カモメも営巣をしているんですけど、結構攻撃的なので頭スレスレまで飛んできたりしますけどね(笑)。

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EC:厚岸ではどのような研究をしていたんですか。

有坂さん:厚岸湖で「アマモ」と「付着藻類」と「アミ」の3者の関係について研究していました。アミはエビに似た甲殻類なのですが、湖に繁茂している「アマモ」の表面に付着する「藻類」を食べるんです。そうすると「アマモ」の葉の表面が出てくるため、光合成しやすくなり成長もよくなるわけです。“食べる”という行為が他の生物の成長を促すなど、生態系には様々な機能があり、複雑な関係の上に生物が生きているということが分かりました。

EC:以前は水産系の記者だと伺いましたが、厚岸での研究があってということなんですか。

有坂さん:そうです。海の生きものの研究者になりたくて大学院に入りました。研究自体はおもしろかったのですが、研究者の世界が狭く感じられて…。だんだんといろんな物を見たいし、いろんな所に行きたいし、いろんな人にも会いたいって思ってしまったんです(笑)。

EC:そこに納まるのが嫌になってしまったということですね。

有坂さん:そうなんです。

周囲の人は研究者を目指して、本当に真摯に研究に取り組んでいました。一方で、世のためになりそうな研究をしているのに、その成果が世の中に全然出ていかないと感じていました。研究の成果をもっと役立たせるために、「外に外に出さないと!」って思い始めたんです。

じゃあ、「伝えるにはどうしたら良いんだろう?」って考えたときに“マスコミだっ!”て思いました。マスコミに入れば一度に多くの人に情報を発信できますよね。ただ、一般紙だと海のことが書けない部署に回されるかもしれないので、海専門の取材ができる新聞社に行こうと思ったんです。海に関わることを、海に関わる人たちに伝えたい。それで、水産業界紙の記者になりました。

EC:何年ぐらい記者をしていたのですか。

有坂さん:東京で3年弱ぐらいです。毎朝築地に行って、おじさんたちにお話を聞くんです。今日はどこどこ産の魚がいっぱい入って値が下がったとか、今日は何々という魚が解禁になって今年始めて荷揚げされたとか、そういう話を聞きに行くんです。朝は築地から始まるという感じでしたね。そのほか、水産庁や魚屋さん、スーパーにお寿司屋さんなどにも行きました。魚に関係するところであればすべてが対象です。途中から養殖担当になったので、養殖魚の餌だとか、養殖用の網に塗る防汚剤などの資材関係の会社や研究機関、実際に養殖場にも行きました。


海の環境問題にもトライしたい

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EC:水産関係の記者から転職しようと思ったきっかけはなんですか。

有坂さん:基本はやっぱり生き物が好きなんです。だから、「なぜ私は自然の少ない東京にいるのか…。」って疑問に思い始めて。また、最初は伝えたくて記者になったにも関わらず、伝えるだけの仕事だなと思ってしまったんですね。自分では何もしていない、誰かが何かをしたことを記事にするだけで、その記事の内容も自分が関わったものでも何でもなくて、誰かがやったことというのが、すごく物足りなくなってきてしまったんです。「自分で何かしたい!」って思ったんです。そもそも自然や生き物が好きなので、その方面にどっぷり浸かれるようなことがしたいと思い始めたんです。

海外にも興味があり、調べてみるとオーストラリアは地域住民を巻き込んだ環境保全活動が盛んな国だということが分かり、記者を辞めてオーストラリアに行ったんです。


EC:あっ、北海道に来る前はオーストラリアに行ってたんですね。

有坂さん:そうなんです。以前から、環境は地域の人たちが動かないと変わらないと思っていました。オーストラリアはそういった活動が盛んだったんです。それで現場を見たくて行っちゃったんです(笑)。1年間だけだったので、そんなに多くのことは体験してはいませんが、タスマニアに滞在した時はペンギンの家をつくったりとか…

EC:ペンギンの家をつくる?

有坂さん:タスマニアやオーストラリア南部には、「リトルペンギン」という世界で一番小さいペンギンがたくさん生息しています。夜になると、エサを獲ってきた親が行列をつくって帰ってくるのを身近に観察することができます。このペンギンは土に穴を掘って巣を作るのですが、猫や犬などが巣穴を掘りおこし殺してしまうんです。この問題を解決するために、草などを混ぜた環境に負荷の少ないコンクリートでペンギンの巣穴をつくるんです。ペンギンはすごく小さいので、入口を猫や犬では入れない大きさにして設置するんですよ。

EC:面白そうですね。

有坂さん:ほんとに面白いですよ。いろんな国の人たちが来ていて、私はイギリスと韓国の人たちと共同生活をしながら、みんなで巣をつくったり、外来種の駆除をしました。

イギリス人がタスマニアに入ってきた時、同時にガーデニングが伝わってきたそうです。この時、外来種が持ち込まれ、繁殖してしまったんですね。特に「ブラックベリー」は棘があるため、海と陸とを行き来する「リトルペンギン」の体に絡まってしまうので駆除する必要があるんです。

EC:外来種といえば以前見たテレビ番組で、タスマニアにはいないはずのヒトデが、ホタテの養殖をダメにしてしまったというのを見たことがあります。原因は日本の船舶によるバラスト水によって多くの微生物を運んできたことだと言っていました。モーダルシフトが二酸化炭素の排出が少ないから良いという見方もある一方、片方では別の問題を生んでいるんだなぁと、実際現地に行ってみないとわからないことっていっぱいあるんだろうなって思いました。

有坂さん:バラスト水は問題ですね。荷物を積んでいない船のバランスを安定させるために、バラスト水が必要なんです。

船を空にして帰るより、何か売れる物を積んで帰った方が経済的にも良いはずですよね。ただ、簡単にアレンジできるほど物の売買は簡単ではなく、手間のかかることなのでしょうね。海の中は通常は見えないため一般的に関心が薄く、バラスト水に関してもそれほど大きく取り上げられていないというのが現状だと思います。

バラスト水は積み荷と一緒に大量の外来種を別の場所に運んでいるので、ほんとうに問題です。バラスト水の中にはもともとその場所に生息していない、目に見えない微生物が何万といるわけだからすごいことなんですよ。国際的にもバラスト水を使わないようにと、規制が検討されはじめているようです。

地上のことは結構見えるけど、海の中は見えないため関心を持たれにくいのかなと思います。でも、だからこそ、海の環境問題にもトライして行きたいなと思っています。

▲外来種(がいらいしゅ)
ペットや街の緑化、農作物など害虫の天敵など、人為的に他の地域から持ち込まれた生物のこと。在来の自然環境や野生生物に深刻な悪影響を及ぼすケースが多く、経済にも重大な影響を与えることがあり、環境問題のひとつとして扱われる。


▲バラスト水
船舶のバラスト(底荷・船底に積む重し)として用いられる水のこと。バラスト水は無積載で出港する際、出港地の海水などをバラストタンクに詰め込み、立ち寄る港で荷物を積載される代わりに船外へ排水される。その際、バラスト水に含まれている水生生物が外来種として生態系に影響を与える問題が指摘されている。


▲モーダルシフト
貨物輸送において、より効率的で環境に優しい輸送手段に転換を図ること。トラックや航空機による貨物輸送を、二酸化炭素の排出量が少なく、エネルギー効率が高い鉄道や船舶による輸送に転換を図ることをモーダルシフトという。




次回はEPO北海道の活動で、ESD事業の一つでもある大沼での取り組みや東日本大震災への支援活動などのお話をお届けします。

▲環境省北海道環境パートナーシップオフィス(EPO北海道)
持続可能な社会の形成を目的として、環境保全活動を促進する基盤づくりを目的に活動する環境省のプロジェクト。


EPO北海道 http://www.epohok.jp/
北のCSR http://www.epohok.jp/hcsr/
ブラキストン線を越えようプロジェクト http://www.epohok.jp/modules/blakiston/



posted by beatnik at 16:11| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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