2012年01月07日

EPO北海道 有坂さんA

「持続可能な取り組みが環境を守る」

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環境省北海道環境パートナーシップオフィス 有坂美紀さん

第一次産業と環境の両立を考え、持続可能な地域づくりのアプローチを続ける有坂さんにお話を伺いました。





大沼で持続可能な地域づくり

インタビュアー(以下EC):以前、有坂さんが「農林水産業にアプローチをしたい」とお話されていたのですが、その後のどういった展開をされていたのか教えていただけますか。

有坂さん:そうですね。なぜ農林水産業かというと、酪農学園大学で酪農を勉強し、水産専門紙の記者をしていた経験から、一次産業が環境に与える影響について考えさせられる機会が多くあったためなんですね。第一次産業は自然環境と直接関わりがあるため、そこが持続的じゃないと環境破壊に直接つながってしまいます。

今、大沼で第1次産業の方たちを含めた地域の方々に話しを聞きながら、大沼の環境保全活動を進めるための事業を展開しています。実は、大沼の水質は30年以上環境基準を上回っています。もちろん、地域の人たちも水をキレイにしたいと思っています。でも水質に関しては利害関係が複雑で、関係者間だけでは上手く調整できない状態が続いています。EPO北海道としては、大沼を持続可能な地域にしていくために、利害関係者が地域の持続可能な発展について、話しをしてもらうための場づくりを行っています。

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去年(2011年)9月、大沼はラムサール条約登録湿地の潜在候補地に選ばれました。ラムサール条約は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」が正式名称で、この条約の基本原則は「Wise Use(ワイズユース)=賢い利用」であり、湿地保全をしつつ、いかに湿地を持続的に利用していくかというものです。大沼では周辺で一次産業が営まれ、観光業も盛んで、ラムサール条約は大沼にぴったりで、ラムサール条約の登録に向けてEPO北海道も協力させてもらっています。

具体的には、ラムサール条約に登録されたら地域としてどのような活動ができるのか、第一次産業と環境の両立をしていくためにはどうしたらいいのかなど、地域の人たちみんなで考える場をつくっているところです。

まずは顔の見える関係づくりが必要だと思っています。それには部外者であるEPO北海道も関係者の方の考え方や活動について知る必要があります。そのため、考えられる利害関係者の方に対して、どういう大沼にしたいのか、そのために何ができるのかなど、一通りお聞きしました。一段落したタイミングにラムサール条約の話が持ち上がり、これを使ってこれからの大沼のまちづくりの話をしていこうと思っています。

話を聞きに行くと、それぞれ環境を守るためにできる限りの対策を講じていて、本当に努力しているんですね。でもそれが周りに伝わっていない。だからこそ、お互いの顔が見える関係づくりが必要だと思っています。

EC:みんなが前向きな意見を出せるように持っていきたいですね。

有坂さん:みんなで建設的に大沼のことを考えられる場を作っていきたいと思っています。地域の人たちがお互いを理解し合う関係になれば、おのずと環境保全につながると思っています。地域の人たちが環境のことを考えなければ、持続可能な地域づくりはできないので、まずは地域の人たちがお互いを理解し合うことから始めようと思っています。

EC:大沼進行中ですね。

有坂さん:はい、大沼にチカラ入れてます。

EC:後程ESD(国連持続可能な開発のための教育の10年)の取り組みを聞こうと思っていたのですが、大沼の取り組みはまさにESDそのものという感じですね。

有坂さん:はい。大沼はESD事業のひとつで、ESDの地域モデルづくりとして展開しているんです。

環境問題は様々な要因が複雑に絡み合っています。そのため、地域経済を支える第一次産業や観光業などのほか、行政、教育機関など様々な分野の人たちが広い視野で考え、取り組んでいく必要があります。大沼でも持続可能な地域づくりについて、分野を超えて、さらに大人も子どもも一緒になって考えるということが大切だと考えており、その過程自体がESDでいう教育だと思っています。

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昨年夏、ラムサール条約を活かした地域の未来を考えるための地域フォーラムを大沼の国際セミナーハウスで開催しました。大沼の方々向けにラムサール条約に登録された後の参考になればと、霧多布湿原ナショナルトラスト(浜中町)理事長・三膳さんやラムサールセンター(東京)事務局長の中村さんなどを講師にお招きしました。講師の方々には、住民を巻き込んだ環境教育の取り組みや各湿地での活動などの事例を紹介していただきました。また、地元の大沼小学校で行っている環境学習について生徒さんたちに発表してもらいました。

EC:話し合いの中には第一次産業や環境団体の方々とともに、観光関係などの企業も当然入ってくると思うのでCSR(企業の社会的責任)という部分にもつながることが出来ますよね。

有坂さん:そうですね。大沼周辺の企業もそうですし、ホテルなども大沼の観光協会の中に入っていますからね。やはり持続可能ということを考えたら観光と環境を絡めて地域にお金が落ちるような仕組みを考え、経済面でも地域が自立できるようになることが重要だと考えています。

EC:企業と第一次産業との接点が結ばれて問題点が解決出来たり、地域ブランドの商品開発などにもつながる可能性だってありますよね。

有坂さん:もちろん環境教育だけでなく、実際にラムサール条約に登録された湿地で生産されたお米が、ブランド米となって高く売られているという事例もあります。そういった可能性は十分あるんですよ。

お互い知恵を出し合えば可能性は広がりますよね。相互理解を進めるための一歩を踏み出せるかどうかだと思います。そして、ラムサール条約という価値の付いた商品が売れることで、環境保全がお金になるという認識を持ってもらい、環境保全にも力を入れてくれるようになればと思っています。

特に、3.11の震災以降、エネルギーや環境汚染の問題に対してこれまで以上に敏感になっていますよね。このため、“環境配慮”という価値の付いた商品を求めている人が多くなっていると思います。大沼でもラムサール条約を活用した商品を開発し、販売することは十分可能だと思います。

EC:では、大沼以外でESDに関する動きはありますか。

有坂さん:大沼以外でもESDを北海道内で推進している方たちを集めた交流会や、北海道ならではのESDプログラムを考えてもらうワークショップなども開催しています。

特に今、ESDのテーマとして考えているのは“震災”です。被災地でも結びつきの強さによって復旧の速さに違いが出たという事例が多くあります。それぞれ立場の違う者同士が意見を出し合い、つながりをきちんと持っている地域は、災害時などのいざという時に強いようです。この考え方は持続可能な地域にもつながると思うんです。では、いざという時に強い地域になるためにはどうしたらいいのか、何が必要なのかということを考えるフォーラムの開催を予定しているところです。

▲ラムサール条約
水鳥を食物連鎖の頂点とした湿地の生態系を守る目的で、1971年に制定された湿地の保存に関する国際条約。条約が採択されたイランの町名にちなんでラムサール条約と呼ばれる。正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」。


▲ESD(国連持続可能な開発のための教育の10年)
持続可能な開発の実現に必要な教育への取り組みと国際協力を、積極的に推進するよう各国政府に働きかける国連のキャンペーン(2005年〜2014年)。


▲ナショナルトラスト
自然は貴重な財産として守り、次世代へ引き継いでいくための活動。


▲CSR(企業の社会的責任)
CSR(Corporate Social Responsibility)は「企業の社会的責任」と訳され、企業が利益、経済合理性を追求するだけではなく、ステークホルダー(利害関係者)全体の利益を考えて行動すべきであるとの考え方で、環境保護のみならず、法令の遵守、人権擁護、消費者保護などの分野についても責任を有するとされている。



ブラキストン線を越えようプロジェクト

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EC:「ブラキストン線を越えよう!プロジェクト」の取り組みを聞かせていただけますか。

有坂さん:震災直後から、東日本大震災に関する役立つ情報をEPO北海道のホームページなどを通じて発信することで、被災地を支援しようと始めたプロジェクトです。名前の“ブラキストン線”とは、青森と北海道を隔てる津軽海峡にある生物が渡ることができない境界線のことで、生物はブラキストン線を越えられなくても人の思いは越えられると考え、北海道から東北地方に思いを届けようと始めました。

震災後、すぐに日ごろからお付き合いのある環境団体などが被災地に入ってがんばっていました。これは「応援しないと!!」と思ったんですね。被災地での活動は直接的には自然環境保全ではないので、もしかしたらEPO北海道が震災支援をするのは違うのではと思う方もいるかもしれません。ただ、環境保全は人の暮らしが成り立っているからこそ考えられることが多く、震災でなくなってしまった暮らしの基礎を築くという支援も、ひいては環境保全につながっていくと思うんですね。支援することでいずれは環境保全につながるということであれば、支援する意味が十分あると思っています。

環境に携わる方たちは、日頃から地域や環境の持続可能性を考えながら活動している場合がほとんどです。これまで環境保全活動をしてきたからこそできる環境団体ならではの、支援のスタイルがあると思うんです。被災地の支援には、これまで培ってきた活動をぜひ活かして欲しいと思いますし、長期的な視野で支援できるのは環境団体の強みだと思います。一方で、活動を続けてもらうためには団体への継続的な支援が必要です。EPO北海道の役割は、1.被災地支援を行っている団体に対する助成金や人材に関する情報提供、2.被災地支援団体や被災地の状況に関する情報収集・発信だと思っています。

EC:一般的に環境団体というと森林保全やごみ問題とかのイメージが強いと思うんですけど、実際は持続的な考えの下、子どもたちを対象とした環境教育や人と自然や生き物、そして人と人のふれあいとか幅広く活動していて、経験も実績もあるじゃないですか。だから私も環境団体こそ被災地の人たちのメンタルケアだとか、持続可能を念頭に置いた復旧・復興のお手伝いが出来るのかなって思ったので、自分も北海道の団体を何らかのカタチで支援出来たらいいなと思ってるんです。ただ、こういった現地の活動がなかなか伝わってこないということもありますね。

有坂さん:そうなんです。多くの場合、被災地での活動を知らないんですよね。運営規模の大きい団体は知名度もあるから寄付などの支援が集まりやすいとは思うのですが、小規模でも被災地に入って地道に活動している団体もあります。そういった団体のことも知ってもらい、みなさんに応援してもらいたいですね。そのために、EPO北海道は情報発信によるお手伝いができると思っています。

震災支援の特設ページを開設した当初は、EPO北海道と関わりのある環境団体の支援をしていくためのページにしようと思っていたんです。でも、情報収集を始めてみると、現地では行政自体が崩壊している地域もたくさんありましたし、被災者の方たちに情報が充分に届いていないと感じました。情報を得るための窓口が1つでも多くあれば、必要としている人に届きやすくなると思い、生活支援の情報なども載せるようにしたんです。震災情報に関しては、収集・発信できる者がやればいいことだと思います。

EC:そうですね。一人に情報を得てもらえればそこから広がる可能性もありますからね。

有坂さん:情報にアクセスできる窓口はいっぱいあってもいいと思ってるんです。EPO北海道もその一つを担っていきたいと思っているんです。

EC:被災地のひとつ仙台にもEPO東北がありますが、何か連携されていますか。

有坂さん:EPO東北は、被災地の環境団体を中心に3月11日の時点でどのような状況にあって、今どのような活動をしているかというインタビュー記事を30ヶ所以上掲載しています。必要としている支援や困っていることなどもインタビューに含まれています。これらの情報は少しでも多くの人に知ってもらいたいので、EPO東北で出している情報をEPO北海道でも出すことがあります。北海道の人たちに少しでも東北の状況を知ってもらえると、支援につながるかも知れないと思っています。

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EC:有坂さん自身、何度か被災地に行って来られたそうですね。

有坂さん:最初は5月末に宮城県石巻市や南三陸町、気仙沼市などを見てきました。でも、何だか分からなくなったんです。被災現場を見たらあまりにもすごくて。もう何から手を付けていいのか、一体何ができるのか分からなくなったんです。すごく無力感でいっぱいになっちゃったんです。本当に何もないんです。波にさらわれる前の風景を知らないから、ただの空き地みたいな…。でもコンクリートの土台や骨組みだけの建物、4、5階建ての建物の上に船があって、「何なんだろうこれは…」って。鉄橋は流されているし、海水を被った木は枯れているし、何もできることがないって、本当にお手上げ状態でしたね。

現地に滞在しながら支援活動ができれば一番ですが、それは無理なんですよね。現地にいなくてもできる支援は何だろうって、被災現場を見ながら考えました。でもやっぱり情報を発信することしかできないって思ったんです。「もう、それしかできないや!」って、やり始めていたブラキストン線での情報発信を続けようと改めて思いました。それが部外者のできることかなと。直接的には支援ができないので、私たちの代わりに活動してくれている団体を支えようということが、実際に行ってみて私自身感じたことですね。

EC:被災地にいち早く動いていた災害救援ネットワーク北海道さんやNPO法人ねおすさんがブログに現地の写真を掲載していたのですが、まるで映画のワンシーンでも見ているかのようでしたね。私も被災地に行きたくても行けないので、そのブログを見ながら被災地で活動されている団体の支援ができたらいいなって思いました。震災から少しして環境NGO ezorockの草野さんから、若者向けのTシャツなどが足りないという情報が来て、あっ、これって今自分に出来ることのひとつだなって思って、すぐ会社で声を掛けてTシャツを集めて送りました。

有坂さん:やれることは人それぞれなんですよね。自分ができることをやればいいと思うんです。どの団体も活動資金は不足しているので、お金を寄付してくれるとありがたいし、1日でも被災地に行くことができるなら行ってほしい。ただ見に行くだけというのはあまり良いことではないと思うかもしれませんが、岩手県で活動する遠野まごころネットの方も「実際に来て、見てほしい」とおっしゃっていましたよ。

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EC:興味本位で来るボランティアが多いということを聞きましたが。

有坂さん:現場を見れば、ほとんどの人が何か思うことがあるはずです。もちろん、「おぉ、すごいな」って思うだけで帰る人もいると思いますが、実際に行って見ると、いろいろ考えさせられると思うんですよ。まず、考えるところから始まると思うんです。行動は次の段階ですよね。手伝う時間がないとしても、見る時間だけでも作れるのなら、それだけでも行った方がいいと思います。大抵の人は何か感じて、行動したくなると思いますね。

現地にはビックリするくらい頑張っている人たちがいますからね。被災された人たちもいるし、どんな暮らしをしているのかを見たら自分を変えたくなりますよ。

EC:紀伊国屋さんのインナーガーデンで避難所用の紙管を用いた間仕切りが展示されたので見に行ったんですけど、そこに人が住んでいるわけでもないのに、見ているだけで胸が詰まっちゃっいましたね。また、これでも良くなっているというのを聞いて、更にこの展示の時点でまだ間仕切りもない避難所で生活をしている人がたくさんいるというのを聞いて言葉も出せませんでした。だから現地に行った人はかなり考えさせられるんだろうなって思いますね。

有坂さん:やっぱり最初は呆然としてしまって、「何もできない」って多くの人が思うんじゃないかなとは思うんですけど、何もできないことはないと思います。たとえば1円でもお金を出すことはできますよね。また、現地で見てきたものを伝えることによって、そこから何かが広がるんじゃないかとも思いますしね。気づいた人がやれることをやればいい。EPO北海道では、一人でも変われるきっかけになるような情報を出し続けていければいいと思っています。

EC:このアースデイ・カフェから有坂さんのお話を発信することが、できることのひとつかなとも思いますし、これをきっかけに何かに気づく人や行動してみようと思う人がいたら嬉しいですね。今日はどうもありがとうございました。

▲避難所用の紙管を用いた間仕切り
国際建築家 伴 茂 さんの活動「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)」として、東日本大震災の被災者のためにコストを抑え、簡単に設置出来る紙管を利用した「紙管を用いた避難所用間仕切り(PPS4)」を無料で供給。避難所でのプライバシー保護や被災者の精神的な苦痛を軽減に役立てられている。






▲環境省北海道環境パートナーシップオフィス(EPO北海道)
持続可能な社会の形成を目的として、環境保全活動を促進する基盤づくりを目的に活動する環境省のプロジェクト。



EPO北海道 http://www.epohok.jp/
北のCSR http://www.epohok.jp/hcsr/
ブラキストン線を越えようプロジェクト http://www.epohok.jp/modules/blakiston/

EPO東北 http://www.epo-tohoku.jp/


posted by beatnik at 15:53| インタビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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